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講義2.2.3 概念の図化 =時間的表現=

【例題】 「仕事とは何か」を一枚の図(絵)で描きなさい

「仕事」は大きくて曖昧な概念です。あなたはこれをつかむのに、どんな根源的要素を掘り起こし、抽象して、本質を洞察しようとするでしょうか。そして、構造的にどう表現するでしょうか───。ここでは3種類〈空間的・時間的・混合的〉の図にまとめていく思考プロセスを共有します。前回はこのうち「空間的な表現」をみました。今回は「時間的」および「混合的」な表現をみていきます。

〈2〉時間の変化でとらえる 時間的な観点から仕事はどう図化してとらえられるでしょうか。例えば、私たちはいろいろな仕事を思い浮かべるとき、その仕事をやる前とやった後で価値創造がなされていることに気がつきます。その価値創造にはいくつかの種類がありそうです。

一つには「増減させる」仕事。たとえば、物を売ったというのは販売量を増やした仕事ですし、物を速くつくれるような工夫を施したのは生産性を増した仕事です。何か機能を付け足したのであれば性能を増した仕事になります。

これを記号的に表せば、「A→A+」です。

しかし、仕事というのは、プラスの価値創造に終えられるときばかりではありません。時には下手な仕事をし、かえって仕事前より価値を下げてしまうこともあります。つまりマイナスの価値創造「A→A−」の状況です。こうしたことを考え合わせると、この種の仕事は「A→A±」と表現できそうです。

また、「変形する」仕事もあります。記号的に書けば、「A→B」です。

外観を変えたり、やり方を変えたりするのはこの類の仕事になります。組み合わせる、組み替える、編集する、もそうです。ときにはつたない仕事をしたことで余計に事が散らかるときがありますが、それもある意味、変形型の仕事といっていいでしょう。

さらにもう一つ、忘れてならないものに「創出する」仕事があります。新規に起こす、発明する、既存の枠を打ち破るアイディアを発案する、オリジナルなものを開発する、などです。これは「0→1」の仕事といえます。

このように、「仕事とは何か」を時間的な変化の観点でモデル化すると、次の3つで表現できそうです。

仕事とは、物事を  ①「A→A±」〈増減させること〉  ②「A→B」〈変形すること〉  ③「0→1」〈創出すること〉

仕事というのはこれら3つの複雑微妙な組み合わせだと考えると、それを表わすには3つの円のベン図が適当でしょう。

〈3〉混合的にとらえる 空間的と時間的の2つのタイプを組み合わせるやり方もあるでしょう。2番めの時間的表現でみたとおり、仕事とはその「行為前/行為後」で価値を創造する活動だと考えられます。その経時的変化を別の形で表したのが次の図です。

「A→A±」〈増減〉にせよ、「A→B」〈変形〉にせよ、「0→1」〈創出〉にせよ、その仕事は「I N P U T→T H R O U G H P U T( T H R U P U Tと略)→OUTPUT」の流れでなされています。

例えば、椅子をつくる仕事は、木材が原材料としてINPUT(投入)されると、作り手の能力や意思・身体といったTHRUPUT(価値創造回路)にかかり、椅子がOUTPUT(産出)されます。

さて、仕事というものは、一人で閉じてできるものではありません。たとえば、職人が椅子をつくるとき、手にする木材は誰かが木を切って運んでくれたものです。工作機械も誰かが設計し、製造し、販売してくれたものです。また、職人が学んできたモノづくりの知識は、過去の職人たちからの贈りものです。そして、当然ながら、そうした仕事をするには健康な身体がいる。そのためによく食べる。食べるとはすなわち、動植物の生命を摂取するということです。となると、職人の仕事のINPUTは、実はほかから提供されるさまざまなOUTPUTで成っていることに気がつきます。

これは同時に、その職人のOUTPUTが次に誰かのINPUTになるということでもあります。その斬新な椅子のデザインはほかの椅子職人のインスピレーションを刺激するかもしれないし、その椅子を購入した人がそこに座ってベストセラー小説を書くかもしれません。そう考えると、仕事というのはずっと連鎖していくイメージが生まれます。このとき、仕事は経時的変化であるとともに、無数の仕事が空間的な広がりをもって複雑につながり合うことにもなります。

そして、この連鎖のイメージを巨視的に発展させていくとどうなるか───。次のようなイメージにたどり着くのではないでしょうか。

すなわち「この世界は、無数の個々が無限様に成すINPUT→THRUPUT→OUTPUTの価値創造連鎖による壮大な織物である」。

以上、「仕事」という概念を一枚の図に描く過程を3つの種類で紹介しました。記事のうえでは簡単に思考の流れを書いていますが、実際のところ、ある曖昧模糊とした概念を前に、モデルを描き出す作業はそうやすやすとは進みません。ああでもない、こうでもない。ああかもしれない、そうだ、これだ!と行きつ戻りつする過程で本質的なことが少しずつ見えてくるはずです。最初の一枚は書いたり、消したり、上書きしたり、ぐちゃぐちゃになるでしょう。何日間か放置しておき、再度見直すと、すっと必要なものだけが見えてきて、構造表現が一段洗練化されるときもあります。

よい概念図にたどり着くためには、図を描く技術もさることながら、やはり物事の根っこに下りていく思考力、根源的要素をつかむ洞察力と語彙、基軸を見つけるセンスいったものが欠かせません。それこそが「コンセプチュアル思考」に求められるものです。末端の問題処理に追われがちな職場にあって、ひごろからその逆方向の、根っこへ根っこへという思考の習慣をつけることが大事です。

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