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講義0.3 いまなぜ「コンセプチュアル思考」か?

◆カッツが唱えた「コンセプチュアル・スキル」 経営の分野でコンセプチュアル能力の重要性を唱えた一人に、ロバート・L・カッツがいます。彼は、『ハーバード・ビジネス・レビュー』(1974年9月号)に寄稿した「Skills of an Effective Administrator」のなかで、管理者に求められるスキルとして、

・「テクニカル・スキル」(方法やプロセスを知り、道具を使いこなす技能) ・「ヒューマン・スキル」(人間を扱う技能) ・「コンセプチュアル・スキル」(事業を全体的に把握する技能)

の3つをあげました。そして、管理者を下級(ローワー)・中級(ミドル)・上級(トップ)の3階層に分け、上にいくほどコンセプチュアル・スキルの重要性が高まると指摘しました。

カッツは、コンセプチュアル・スキルがどういったものかについてはそこであまり細かく述べていません。おおむね、事業全体を俯瞰し各部門の関係性や構造を把握する力、ある施策がその後どのような影響を各所に与えるかを推測する力、共通の目的を描き関連部署の意識をそこに集中させる力といったような記述をしています。

そのようなカッツの先駆的な言及を受けて、コンセプチュアル・スキルを思考技術養成の側面から体系化を試みるのが、この『コンセプチュアル思考の教室』の目的でもあります。

◆ロジカルのみでは独自の答えは出せない ビジネスの世界では、基本的にロジック(論理)主導で物事を動かしていきます。今後もそうでしょう。が、私たちはそれだけでは行き詰まってしまう状況も目にしてきました。経済合理性に基づいて、どの会社もロジカルに商品をつくり、ロジカルに競合商品をつくっていくと、行き着く先は利益の出ないコモデティ化の世界です。

1981年にノーベル化学賞を受賞した福井謙一氏は次のように言っています。

「結局、突拍子もないようなところから生まれた新しい学問というのは、結論をある事柄から論理的に導けるという性質のものではないのです。では、何をもって新しい理論が生まれてくるのか。それは直観です。まず、直観が働き、そこから論理が構築されていく。 (中略) だれでも導ける結論であれば、すでにだれかの手で引き出されていてもおかしくはありません。逆に、論理によらない直観的な選択によって出された結論というのは、だれにも真似ができない」。                   ───『哲学の創造』PHP研究所より

ほんとうに独自なものを生み出すためには、ロジックを超えて、直観という飛躍が必要になります。その直観の世界のひらめきはコンセプチュアル思考が得意とする分野です。

また、働く心の健康(メンタルヘルス)が叫ばれる昨今の仕事生活となりました。心の健康を守るために、ストレス発散やメンタル強化のためのいろいろな方法・サービスが世の中にはあります。しかし、働く心をもっとも守り、もっとも強くするのは何でしょうか。それは仕事から意味を見出すことです。意味から湧く力は無限で強力です。意味を考えるための内省作業もまた、コンセプチュアル思考が得意とする範囲です。

◆コンセプチュアル思考は「答えを起こす」思考 私たちビジネスパーソンにとって、日ごろ「コンセプチュアルに考える」場面は、実はたくさんあります。

〈一業務担当者〉として、  ・「次の新製品のコンセプトをどうしようか」  ・「直面する状況の問題構造をどう一枚の図に描いて説明しようか」  ・「商品のスペック改良とコストダウンではもはやジリ貧競争になる。    本質的なところを変えないと。でも、その本質的なところって何だろう?」   ……など。

また〈管理職者〉であれば、  ・「どんなビジョン・理念を打ち出しメンバーを牽引していくべきか」  ・「リーダーとしてぶれない軸を持つためのその軸とは何か」  ・「この組織は包括的にみて、どうもバランスを欠いて力が出ていない。    現状のリソース(資源)を最大限生かしつつ、どう再生しようか」   ……など。

さらには年齢や立場がどうあろうと〈一職業人〉として、  ・「職業人としての自分自身のコンセプトは何だろうか」  ・「自分の働く動機は何だろう」  ・「これまで培った技術や会社にしがみつくのではなく、    技術を生かしてどうキャリアの選択肢を広げられるのか。    会社をテコにしてどう自分を開くことができるか」   ……など。

 こうした問いに向かう思考は、「わかる」を目指すものではありません。「わかる」とは「分かる/解る」と書くように、物事を分解していって何か真理に当たることです。これはロジカル思考が担当する分野です。これに対し、コンセプチュアル思考は「起こす」思考です。

正解値のない問いに、 「概念を起こす」。 「意味を起こす」。 「観(=ものごとの見方・とらえ方)を起こす」。

働く一人一人がほんとうの力を出すうえで、そしてその集まりである組織が独自に強い事業を行なっていくうえで、こうした「起こす」思考力の差がきわめて重要になってくるのではないでしょうか。

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