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3つの基盤的思考能力

◆知の思考・情の思考・意の思考

哲学者カントは、人間の精神のはたらきとして「知・情・意」を考えました。人間の思考は当然そうした精神のはたらきの影響下にあります。その観点からながめると、人間の思考活動として次の3つがみえてきます───すなわち「知の思考・情の思考・意の思考」です。

 

例えば思考のなかでも、「鋭く分析する」「賢く判断する」「速く処理する」といったときの思考は、「知」のはたらき主導でなされる種類であるように思います。一方、「人の気持ちをくんで考える」とか「心地よさを形にする」「美しいを表現する」ときの思考は、「情」のはたらきに引っ張られているように思います。さらにはもう一つ、「深く洞察する」「綜合してとらえる」「意味を掘り起こす」といった思考は、「意」のはたらきが影響する種類とみることができます。
 

これら3つの思考に対して、次のような思考法・思考教育が当てはまります。


  〇「知の思考」→「クリティカル/ロジカル・シンキング」
  〇「情の思考」→「クリエイティブ/デザイン・シンキング」
  〇「意の思考」→「コンセプチュアル・シンキング」















 

「知の思考」にかかわる「クリティカル/ロジカル・シンキング」は次のようなことを目指しているといえます。
 

 ・鋭い頭をつくる
 ・論理/客観性にもとづく思考態度をつくる
 ・分析力/批判力のある仕事ができる
 ・知識や技術を最大限生かし、効果/効率を狙う仕事をする
 ・万人を納得させる説明ができる

 

また、「情の思考」にかかわる「デザイン・シンキング」は次のようなことを目指すものではないでしょうか。
 

 ・「美しい/快い/優しい」を扱う
 ・共感にもとづく思考態度をつくる
 ・「カッコイイ/かわいい/スゴイ/面白い/ウレシイ」を形にする
 ・五感豊かに発想する
 ・美意識にもとづいた仕事表現をする
 ・「体験」を商品化/サービス化する

 

そして「意の思考」にかかわる「コンセプチュアル・シンキング」は、次のようなことを目指します。
 

 ・本質を抽象し、概念化する思考態度をつくる
 ・独自のとらえ方=観をつくる。そしてその観にもとづき意志のある仕事をする
 ・物事を深く豊かにを咀嚼(そしゃく)する
 ・理念にもとづいた商品/サービスをつくる
  そして大局観に立った事業のグランドデザインを描く
 ・物事に意味を与える



◆強い事業・商品・サービスは3つの思考を融合させてこそ

例えば、アップル社がつくりあげた一連の製品群――iMacからiPod、iPhone、iTunes、iPadに至るまで――は、いかなる種類の思考によって生み出されたのでしょう。


確かに論理的思考は重要だったでしょう。複雑な市場からデータを集め、消費者心理を読み、仮説を立てて戦略を練る。そして日進月歩で変化する製品技術をマネジメントし、大規模な生産システムを動かしていく。そこには理詰めの計画・運営が不可欠です。


しかし何よりも決定的だったのは、コンセプトを起こす力であり、製品の世界観を抱く力でした。さらには「Think different」という同社が文化として持っている強力な意志の力でした。これらはコンセプチュアルな能力に属する思考です。
 

さらには美・快の体験価値を具現化する思考力もなくてはならないものでした。あれらの道具に最初に触れたときの操作感覚の驚き、そしてウキウキ感。それらの実現には卓越したデザイン的思考を要したのです。そうした3つの思考を“唯我独尊的に”リードしたのが、ステーブ・ジョブズCEOでした。
 

いずれにせよ、仕事がますます高度専門的に複雑化し、スピード化が進む中にあって、一人一人のビジネスパーソンにあらためて重要になってくるのが「考える」という基盤の能力です。論理を通す思考力、美・快を具現化する思考力、概念・意味・意志を起こす思考力。これらの基盤能力を分厚く鍛えてこそ、知識や技術は大きく活かされます。
 

スポーツにおいても華麗なプレーは、基礎体力・体幹筋・反射神経が鍛えられてはじめて可能になります。それと同じように、私たちは「知・情・意の思考力」をふだんから磨き続け、業務課題に合わせて融合させていくことで、独自で強い仕事をすることができます。そしてそうした個が能力を掛け合わせることで、独自で強い事業を生みだすことができます。

 

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